アートとビジネスから見る、丸の内と未来美術館で「新しい私」探し!

日本経済の中心地として数々の企業や金融機関を有する丸の内。そんな丸の内の一角に佇んでいるのが三菱一号館美術館です。三菱一号館美術館は、緑の美しい中庭を抜けたところに入り口を構える美しい赤煉瓦造りの建物。近代的なデザインのビルが林立する中に存在する、そのレトロでエレガントな雰囲気は、慌ただしく流れていく時間に安らぎを与えてくれるでしょう。ここでは、そんな三菱一号館美術館の魅力や概要を紹介していきたいと思います。

三菱一号館美術館の歩みと展覧会の魅力

三菱一号館美術館とはいったい何なのかといった、私たちの疑問を解決するべく、三菱一号館美術館の上席学芸員の野口さんにお話を伺いました。そもそも三菱一号館美術館はその名の通り公営の美術館ではなく、三菱地所株式会社が経営している企業美術館です。しかし創業者のコレクションを展示しているような一般的な企業美術館ではなく、この建物と同時代の近代美術を中心とした企画展を主に開催しています。この美術館は、丸の内の活性化を目標とした街づくりの一環であり、かつて丸の内初のオフィスビルとして活躍していた三菱一号館を復元して、美術館という街の文化施設としての役割を担わせています。復元建物である外観はレンガ造りのレトロな印象ですが、元が事務所建築であるため、内装は通常の美術館とは異なる造りとなっています。三菱が丸の内に最初建てた洋風のオフィスビルである三菱一号館は、三菱のアイデンティティとも言えます。丸の内を単なるオフィス街ではなく、さまざまな人が訪れるような場にする街づくりのために三菱一号館美術館が復元されたのです。
次に今回訪れた際に開催されていた「ラファエル前派の軌跡展」についてもお話をお伺いし、実際に展覧会を見学させていただきました。ラファエル前派とは19世紀、イギリスの美術において重要な役割を果たした三人の画家のグループに端を発しています。しかしこの展覧会ではラファエル前派ばかりではなく、もうひとつのテーマとして英国美術の立役者である評論家のジョン・ラスキンの生誕100年を記念して、彼にちなんだ作品が展示されていました。作品が撮影出来たり、フォトスポットが設置してあったり、SNSを通じてこの展覧会を広める工夫も数多くありました。また館内に併設されている歴史資料室も見学し、建設時の資料や三菱一号館の模型を拝見することができ、より深く三菱一号館美術館について学べました。

三菱一号館美術館が考える美術館構想と今後の展望

三菱一号館美術館への展覧会鑑賞見学の後、日を改めて美術館へ取材をさせて頂きました。美術館での体験を通して、私たちが気になった点や興味をもった点を皆でまとめ、取材時に率直に質問してきました。

1 ブランドスローガンについて 『新しい私に出会う』ってなんだろう?

福士さん
三菱一号館美術館が開館して2020年で10周年になるんですけれども、その前の区切りとして、開館5周年のタイミングに改めて10周年に向けて、一号館がどういう風になったらいいかということを皆で考える機会を設けました。この街の特性についても議論し、作品を観て心が動かされる体験をしていただきたいと考え、来館者が感性を開いて新しい世界に触れることができる場所であることを、スローガンとして掲げたいという結論に達しました。そんな想いを込めて、「新しい私に出会う、三菱一号館美術館」というスローガンが生まれたのです。

美術館広報担当 福士貴子さん


2 学生の入場無料サービス! 学生を対象とするわけとは?

野口さん
10代のうちに美術館に来る癖をつけていないと、なかなか美術館に来ないと言われています。そのため、若いうちに美術館に来る習慣をつけたい。美術館は行きづらいところではなく、行って楽しいところとなるためには、とにかく一度来てもらわなくてはいけません。お金がない学生がいるかもしれませんし、このサービスを行うことで気楽に来られる機会を作りたいと思っています。
今年の秋(EDO TOKYO NIPPON アートフェス2019、9/21~23)には無料バスを循環させて周辺美術館との移動もしやすくなるようにしています。そして、連携している五館(アーティゾン美術館、出光美術館、三井記念美術館、東京ステーションギャラリー、当館)の学芸員が出てきて講演会を行ったり、色々なイベントを考えているので是非ウェブサイトをご覧いただければと思います。

上席学芸員 野口玲一さん


3 「ビジネスとアート」× 三菱一号館美術館 ビジネス街に建つ美術館の捉え方とは

河野さん
地域の美術館として愛され、親しみを持っていただきたいので、この地域のビジネスパーソンには、ぜひいらしていただきたいです。そのためにも美術館がご自身の仕事に役立つことを知っていただきたいと思っています。
これまでは、経済も右肩上がりで、“安くて、早くて、旨い”牛丼のような商品を作れば売れていた時代でしたが、徐々にそれだけでは売れなくなってきています。どのような商品やサービスを提供すればよいか、その解は過去の統計やデータからも導き出すことも難しくなってきています。実は、アートにそのヒントがあるのではないか、と私たちは考えています。2017年に出版された山口周さんの本『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』、『経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)』がベストセラーになりましたが、その後も次々とアートとビジネスについての本が出版されています。アートは、既成のパターン認識から自由になり、先入観というバイアスを払拭して自由に発想することを私たちに教えてくれます。既成概念から離れてものを見るということは、日常的にはあまりできていないと思いますが、美術館で絵を観るということは、その訓練にもなるのです。美術館の使い方は様々あってよいと思いますが、このような使い方もあるのだと知っていただくことで、より多くのビジネスパーソンの方々に美術館に来ていただければよいなと思っています。

美術館室長 河野安紀さん


4 SNSについて どんな情報発信がされているのだろう?

福士さん
SNSは自分たちでいつでも情報発信できる便利なツールです。ダイレクトに情報をお客様に届けることができるのが最大の魅力ですが、投稿の内容やトンマナなど運用面で気を遣うこともあります。毎日のネタ探しや、いつ投稿したらいいだとか、反応があるトピックはなんだろうと、いろいろ考えるのもなかなか大変ですね。
ちなみに、当館の魅力である一号館広場はキラーコンテンツです。その他の工夫として、美術館だけでなく、エリアの情報発信も行っています。街のイベントもお知らせすることで、ちょっとでも皆さんのお役に立てればいいな、と常々思っております。


実際にどんなものに反響があったのだろうか?

福士さん
当館に併設しているCafe 1894のアフタヌーンティーはとても反響がありました。展示替え期間だけ提供しているメニューで、いつもあるわけではありません。美術館が休館していると、カフェの売り上げが落ちてしまい、その改善策として、アフタヌーンティーが考えられました。当館の建物もイギリス建築ということもあって、アフタヌーンティーを採用したのですが、このアフタヌーンティーは、Twitterで告知するやいなや、即リツイートされ、予約がすぐに埋まってしまいました。広告を出した訳でもなかったので、SNSの拡散が実際の来店につながることを実感した事例です。


5 これからの三菱一号館美術館 丸の内の変遷

河野さん
もし、この三菱一号館美術館がなかったら、丸の内はどうなっていたのだろうと、ふと考えることがあります。美術館があった10年と、そうでない10年に違いがあるのだろうかと。私たちとしては違いがあって欲しいと願いますが、統計的に分析はできていないですね。アートが大好きなコンサルティングファームの方で、当館のフリーパスをお持ちで、お昼休みなんかにふらりと立ち寄ってくださる方がいらっしゃいます。その方は「職場の近くに美術館があって嬉しい」とおっしゃっていました。
皆さんの年代ですとご存じないかもしれませんが、バブル崩壊後、「丸の内の黄昏」と新聞で見出しがつくような時期がありました。しかし、その後、世界一、インタラクションが活発な街にしようというコンセプトのもと、ハードだけでなく、ソフトの仕掛けやコンテンツを強化しながら開発を進めてきました。美術館もその一つなのかと思います。文化・芸術という要素は街の成熟度を測る上で重要なエッセンスなのではないでしょうか。森記念財団都市戦略研究所が「世界の都市総合力ランキング」を調査されていますが、そこでも文化の要素は都市力を測る要素の一つとしてあげられています。
※三菱一号館美術館サポーター制度(MSS)

開館10周年とオリンピックによせて

河野さん
やはりオリンピックの期間は海外から多くのお客様がいらっしゃいますのでスポーツは勿論ですが、日本の文化にも目を向けていただく好機になればよいと考えています。

後日、三菱一号館美術館ホームページで2020年の展覧会が発表されました!

2020年2月15日(土)から6月7日(日)に開催予定の 「開館10周年記念 夢の子ども時代 ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン展」(仮)では、
三菱一号館美術館の開館10周年を記念して、19世紀末パリの前衛芸術家グループ「ナビ派」の画家たちが追求したテーマの中から「子ども」に焦点をあて、都市生活や近代芸術と「子ども」との関係を検証します。三菱一号館美術館に加え、国内外の美術館の所蔵品約80作品が展観予定です。

また、2020年7月8日(水)から9月22日(火・祝)には
「三菱創業150周年記念 静嘉堂・東洋文庫の至宝」展(仮)が開催されます。三菱創業の岩崎家2代~4代にあたる彌之助、久彌、小彌太の収集品が保管されている静嘉堂と東洋文庫の所蔵品が三菱一号館美術館に集まる貴重な機会となります。三菱グループの誇る国宝、重要文化財を含む美術工芸品、古典籍などの作品群100点余りが展観予定です。

三菱一号館美術館への見学と取材を通して、丸の内と三菱一号館美術館との関わりや、ビジネス街で美術を展示する意義についても理解することができました。丸の内というビジネス街で昔の佇まいを色濃く残す三菱一号館美術館は、建物も、そして施設そのものも都会のオアシスのような居心地の良さを含んでいました。 また今回の体験を機に、これまで感じていた美術館への敷居の高さや、「学ぶ場である」という偏った印象がなくなったことに気が付きました。学生無料ウィークやイベントも定期的に開催されており、このような機会を積極的に活用しながら、丸の内と三菱一号館美術館にこれからも訪れたいと思います。

こうだったら若者も来館するかも?
学生視点から考えてみた

学生企画の提案をしました

今回の三菱一号館美術館への取材時に、私たち学生が考えた企画をプレゼンテーションさせて頂きました! 美術館に対する学生の率直な希望や意見から発展させた企画を提案することによって、美術館運営に携わる方々に、学生側の考えを知ってもらおうと考えました。 大まかな内容にはなりますが、私たちが取材時に提案した6つの企画をご紹介します。

 ①SNSのリツイート、ハッシュタグ機能を活用した割引プラン
 ②特定の服装で来館すると割引プラン
 ③ちらし、割引券を大学内で配布プラン
 ④販売するグッズの品ぞろえを増加プラン
 ⑤美術館職員が教育機関や地方で講演会を行い、
  美術館の認知度を向上させるプラン
 ⑥美術系を学ぶ、または興味をもつ若者を対象にした
  インターンシッププラン

そしてこの中の「特定の服装で来館すると割引プラン」が、三菱一号館美術館で現在開催中の「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」のお盆のイベントの「ゴンドリエール割引(ボーダーの服を着てくると200円割引)」という企画となり、実施されることが決定しました!
実際に美術館運営に携わる方々に、実現可能性の高さに関わらず直接学生の考えをお伝えするという機会は、今回の取材ならではの非常に貴重な体験となりました。 学生企画の提案を快く受け入れてくださった美術館の皆さま、本当にありがとうございました。

展覧会・イベント情報は下記アカウントフォローで最新情報をチェック!
・三菱一号館美術館WEBサイト
 https://mimt.jp/
・三菱一号館美術館公式ツイッター
 https://twitter.com/ichigokan_PR
・三菱一号館美術館公式インスタグラム
 https://www.instagram.com/mitsubishi_ichigokan_museum/
・三菱一号館美術館サポーター制度(MSS)
 https://mimt.jp/mss/
・東京駅周辺美術館連携WEBサイト
 https://5museums.tokyo/


<取材・文>
大妻女子大学
社会情報学部
西山 咲
大妻女子大学
文学部
濱田 真衣
共立女子大学
文芸学部
澤 祐香里
東京家政学院大学
現代生活学部
南崎 文絵
法政大学
キャリアデザイン学部
永田 真夢
法政大学
文学部
深井 靖斗

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